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マーケットコラム

売買契約の合意解約が頻発/REITアナリスト 山崎成人

2009-02-20

REITアナリスト 山崎成人


 先日、日本プライムリアルティ投資法人から取得予定物件の売買契約解約の発表がありました。
これで、昨年10月のニューシティ・レジデンス投資法人、11月の日本レジデンシャル投資法人と3件の売買契約解約となり、何れも解約に伴う違約金の支払いが発生しています。
REITが締結する不動産売買契約では、契約時に支払う手付金は一般的に数千万円程度ですから、解約の際には手付金放棄と追加の違約金が発生し、両者併せて売買予定金額の20%相当になるのが一般的です。(通常は売買契約条項に明記されています。)

日本プライムリアルティ投資法人が取得を中止した物件は、取得発表時点では以下の内容でした。

物件名称:(仮称)KM複合ビルプロジェクト商業施設棟
契約締結時期:平成19年3月30日
売買予定金額:92.5億円(消費税除く)
引渡予定時期:平成21年3月(建物竣工時)
所在地:大阪市中央区高麗橋1-63-1(地番)
用途:商業施設
   3Fはクリニック関連が入居予定
   4~6Fはフィットネスクラブが入居予定
   B1~2Fは未定
想定取得利回り:約4.3%(鑑定評価上の還元利回り)

今回取得を中止した理由は、取得価格に対して鑑定評価額が追従しない等、今日の状況では取得価格の客観的合理性が希薄になった事が挙げられています。
売買契約解約に伴う違約金支払いは19億円(契約時手付金は475百万円)で、この負担によって、次期予想配当金は3,300円/口となり、前期比で約47%の減配になります。

本件についてはいくつかの見方が成り立ちますが、長期保有を前提としたREITでは、取得時点の利回りはその後の運用では非常に重要な要素となります。
取得利回りを価格ピーク時に寄せてしまうと、取得後のパフォーマンスが市場利回りに達するまで時間を要し、ポートフォリオ全体の足を引っ張りますから、自らのポートフォリオ平均利回り以下の取得には慎重さが必要です。
この点で見れば、本件の契約締結時点(平成19年3月)は難しい時期でもありました。
REITの投資口価格は上昇を続けていて、未だ私募ファンドの物件取得も活発な状態にありましたから、REITが本物件を取得したいと考えたのは自然です。
次に取得利回りですが、4.3%は売主が納得するギリギリのラインであったろうと推測されますが、仮にこの利回りが4.5%超であっても、今日の実勢相場よりは低いですから、やはり売買契約の見直しは必要になったと考えられます。
かつて平成19年5月に日本プライムリアルティ投資法人が取得を発表した「ゆめおおおかオフィスタワー」に対して、私は取得利回りが低すぎると資産運用会社にアピールした事があります。
低い利回りでの物件取得は慎重にすべきというのが私の意見でしたが、一方、本件の「KM複合ビルプロジェクト商業施設棟」に対しては2年後の取得ということで看過したのと、商業施設の価格高騰に対する問題はREIT全体に及んでいましたので、本件だけ取り上げても仕方ないという思いがありました。

このように考えると、この物件の取得判断は誤りではないものの、利回りだけが問題でしたが、既に商業施設の価格は高騰していて、本来必要とする利回りでは取得出来なかったのも事実です。
不動産の取得判断では「買わない」という決断が最も難しいですし、まして周囲が沸騰している時期に控えるのは至難です。
従って、本件の取得判断は平成19年3月時点では止むを得なかったと思えるのと、今回取得を断念したのも次善の策だとも言えます。
今後もこのような例が生じるかも知れませんが、不動産投資では途中解約は一つの選択肢ですので、無理な取得を強行するよりは良いと言えると思います。


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