さくら総合リート投資法人の合併について注目すべき点/アイビー総研 関 大介
今回は「さくら総合リート投資法人」の合併に関して留意すべき点を記載する。
現時点で明確になっている点は以下の通り3点ある。
(1)さくら総合リートと投資法人みらいは、8月5日に合併契約を締結している。
合併条件の概要は、みらいとさくらの合併比率を1:1.67とし、11月1日にみらいを存続投資法人とするもの。
(2)スターアジアグループ(SAG)が提案した、さくらの執行役員及び資産運用会社を変更するための投資主総会が8月30日(午前10時)に開催される。
(3)上記(1)の合併を承認するための投資主総会が8月30日(午後3時)に開催される。
さくら側及び本合併の端緒となったスターアジア不動産投資法人のスポンサーであるスターアジアグループ(SAG)は様々な開示資料を投資家に示している。
但し、両者ともに「一定の条件で物件を取得したら、巡航分配金(※1)は相手側提案を上回る」というものであり、この点は際限がないため、本稿ではその是非及び優位性については記載しない。
また重要な点として、SAGの招集で開催される上記(2)の投資主総会は、SAGの主張によれば、さくらから提案されている運用体制をみらいとする議案は不適法であり、SAG側の招集通知には記載しないとしている。
この点について、さくら側は、投資主の利益保護が図られていないとしている。東京地裁に対し、SAG側の執行役員及び資産運用会社を選任する決議の禁止等を求める仮処分の申立てを行ったことを8月22日に公表している。
従って(2)の事項も流動的な要素がある状態になっている。
現時点で(2)の投資主総会議案がどのようになるかは不明である。
仮にSAG側の主張が通るとすれば、みなし賛成制度が適用されることになる。みなし賛成制度とは、賛否を明らかにしない投資主は賛成とみなすという制度である。
従って、SAG側の提案に反対する投資主は議決権を行使し、反対の意思表明を明確にする必要がある点には留意すべきと考えられる。
1. 投資法人みらいとの合併の優位性
(1)長期投資を想定する投資家の場合
5年以上の長期投資を考慮するのであれば、さくらの提案する「みらいとの合併」の方が優位性が高いと考えられる。
最大の要因は、不動産市況の悪化や金利が上昇する局面では、スポンサーの信用力がREITにも影響するためだ。
みらい、スターアジアともに固定金利での借入金比率は高いため、短期的には影響は少ないと考えられる。
しかしスターアジアの借入金は最長でも5年となっているため、みらいと比較すると、将来の金利上昇リスクは高い状態になっている。
更に現時点でもみらいの借入金の調達コストはスターアジアより低い状態になっている。
例えば、期間5年の固定金利での借入金の調達コストは、みらいの場合は18年11月1日調達分で0.32%となっているが、スターアジアでは18年9月6日調達分で0.812%となっている。
スターアジアでは10年国債利回りがマイナスに転じた19年4月22日調達でも0.7315%となっている点で比較すれば、みらいの金融機関に対する信用力は高いと言えるだろう。
(2)合併後AA格相当になると想定する投資家の場合
次に、比較的短期間での投資を検討している投資家であれば、さくら側の開示資料に記載がある、「みらいが合併後にAA格相当に格付けが向上する」確度を考慮するべきであろう。
AA格相当の格付けがある銘柄で最も利回りが高い「フロンティア不動産投資法人」の利回りは、8月21日時点で4.61%となっている。
みらいの合併後の売却益などを除外した分配金をベース(※2)にすると、仮に4.6%まで利回りが低下すれば、価格は66,600円以上になる。
8月21日の終値57,600円と比較すると、9,000円程度価格が上昇することになる。
前述の通り、さくら、スターアジアともに合併後の分配金の比較資料を開示しているが、分配金の差異は少ない。
従ってみらいが合併後にAA格相当になり、価格が上昇(利回りは低下)すると考える投資家であれば、さくら側の提案の方が優位性が高いと考えられる。
注意点としては、格付けの向上は現時点では未確定であるという点だ。
筆者は、みらいとの合併が成立すれば、AA格相当に格付けが向上すると考えているが、当然ながら格付けが据え置きとなる可能性は残っている。
2. スターアジア不動産投資法人との合併の優位性
(1)短期的な分配金増加を期待する投資家の場合
上記1の条件に合致しない、つまり長期投資は考慮せず、みらいと合併してもAA格相当にはならない、またはAA格相当になったとしても価格が上昇しない、と考える投資家であれば、SAG側の提案に優位性があると考えられる。
SAG側の提案に拠れば、さくらが保有する物件を具体的な金額を明示した上でスポンサーが購入する意志があることも示している。
スターアジアと合併すれば、短期的には分配金の大幅な増加も期待できそうだ。
注意点としては、現時点では、午前10時の投資主総会でSAG側の提案(運用体制をSAG側に変更)が投資家の支持を得られるのかという状態である。
従って、その後に行われるであろうさくらとスターアジアの合併に関する投資主総会でも承認される前提で記載している。
投資主総会でSAG側の提案が仮に受入れられたとしても、その後さくらの投資主にとって不利な合併条件になり、合併のための投資主総会で否認される点は考慮していない。
またSAG側の合併比率や合併後の分配金の数値は、あくまでも「想定でしかない」ため、変動する可能性がある。
更に、さくら側から指摘がある通り、SAGが「巡航分配金」として開示しているスターアジアとの合併後分配金の実現時期が明示されていない。
つまり合併後のみらいの2020年4月期・10月期の業績予想数値とは前提条件が大きく異なっている点には留意したい。
(2)「さくら」「みらい」「スターアジア」の3銘柄を保有する投資家の場合
今回合併の当事者となっているさくら、みらい、スターアジアは、いずれも比較的利回りが高い銘柄である。
従って個人投資家の中には、今回当事者となっている3銘柄全てを保有する投資家も多くいると考えられる。
この場合、みらいは合併を経なくてもAA格相当の格付けになる可能性もあるため、スターアジアの方が合併で受ける恩恵が大きいと考えられる。
従って、3銘柄保有する投資家の場合には、スターアジアとの合併の方が全体のパフォーマンスを高めることが考えられる。
但し、前述した通り、合併後もスターアジアが物件売却を続ける可能性がある点には注意が必要だ。
現状では新規取得物件の利回りは、相対的に既存ポートフォリオよりも低くなる。従ってポートフォリオ利回りを維持するために、地方物件やテナント退去リスクを内包するような商業施設などを取得する可能性がある。
不動産市況が変化した場合に収益力低下リスクが高くなるという懸念があると考えられる。
不動産売買市場が高騰している中では、物件売却を積極的に行う銘柄が魅力的に見える投資家も存在すると思う。
しかし過去には、上場時から物件売却を積極的に行う方針を示し、リーマンショックによって分配金が10分の1以下まで低下した東京グロースリート投資法人(現、インヴィンシブル投資法人)という事例も存在している。
売却益を毎期計上するような銘柄の場合、巡航分配金を考慮せず投資を行いやすいだけでなく、ポートフォリオの劣化が進むという認識を持つ必要があるだろう。
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※1:物件売却損益など、一時的な増減要因を排除した分配金水準を指す。
※2:みらいが開示している合併後の分配金から売却益などの一時的な分配金増加要因としている288円を合併比率で除した172円を減算した年間3,068円。一定規模の物件取得を前提として増配分は加味していない。
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