いちごホテルリート投資法人の特徴と留意点/アイビー総研 関 大介
11月30日に上場した、いちごホテルリート投資法人(IHR)の特徴と留意点について記載します。
IHRのスポンサーは11月17日に東証1部に上場市場が変更となったいちごグループホールディングス(証券コード2337)です。資産運用会社は、既にいちごオフィスリート投資法人(証券コード8975)の運用を行なっているいちご不動産投資顧問(株)となります。
1. インバウンドの影響を受けやすいポートフォリオ構成
IHRの投資用途は、投資法人の名称が示す通りホテル特化型で、上場当初は収益の安定性を一定程度確保するために宿泊主体型のホテルに投資するとしています。上場時のポートフォリオは、ホテル9棟を204億円で取得する予定となっています。
IHRの最大の特徴は、前述の通り取得予定のホテルは全て宿泊主体型となっていますがコンフォートホテル浜松(取得額1,550百万円)を除き8棟がホテルの売上げや収益によって投資法人が受け取る賃料が変動する形式(変動賃料)を一部採用した賃貸借契約となっている点です。
ホテルは、訪日客の増加により収益が拡大していますので、その恩恵をIHRが受けることができるものとなっています。
IHRは賃料全体に対し変動賃料の割合が40%を目処とするとしています。この数値は既に上場しているホテル特化型では、ジャパン・ホテル・リート投資法人(JHR)の38.3%(※1)に近く、星野リゾート・リート投資法人(HRR)の21.8%(※2)より高いものとなっています。
このような点から見ると、IHRは訪日客の増加傾向が続くことを想定しているため、変動賃料を採用しても収益の安定性は確保できると見ているものと考えられます。
上場時の取得物件を地域で見ると、変動賃料の8棟は、京都2棟、札幌2棟、名古屋・大阪・神戸・福岡それぞれ1棟となっていて、訪日客の影響を受けやすくなっています。
婚礼部門や宴会部門を持つフルサービスホテルやラグジュアリーホテルは、訪日客の母国の経済情勢や日本国内の景気動向に影響を受けるため、IHRは上場当初に宿泊主体型を投資対象としているのです。
2. 増資の可能性
次に留意点として、上場時の借入金比率が高いことが挙げられます。
IHRは上場時に最大で116億円の借入れを行うとしているため、物件取得額に対する借入金比率は50%を超えることになります。他銘柄では、住居系を中心に借入金比率が50%を超えている銘柄もありますが、同じホテル特化型のJHRは45%、HRRは30%程度となっています。
従ってIHRは、上場後に物件取得を行うために早い段階で増資を行う可能性があります。ホテルの売買価格は高騰(取得価格に対する利回りは低下)していますので、上場後の価格が公募価格より高い水準を維持していないとIHRの1口当たり分配金が減少する懸念があります。
ホテル価格高騰の影響は、JHRやHRRも同様に受けます。しかし、JHRはポートフォリオの規模が2,000億円を超えているため、増資に伴い取得する物件のポートフォリオ全体に占める割合が低くなり物件価格高騰の影響が及びにくくなっています。またHRRはポートフォリオの規模は854億円ですが、1口当たり出資額87万円に対して価格が124万円(11月18日時点)とプレミアム増資効果が高い状態になっているため、実質的に物件価格高騰の影響を受けない状況です。
つまり、IHRはホテル価格が高騰している中での上場銘柄となったため、増資後の1口当たり分配金の増加にはHRRのようにプレミアム増資効果が必要と考えられるのです。
なお、IHRの価格形成は、JHRとHRRの利回りが参考になるものと考えられます。11月18日の利回りはJHR3.13%、HRR3.41%となっています。前述の通り、HRRは借入金比率が低いため増資を行わなくても物件取得が可能な状態ですので、IHRは少なくともHRR以上の利回りが必要だと多くの投資家が考えることになりそうです。
※1:ジャパン・ホテル・リート投資法人が10月29日に公表した「平成27年12月期(第16期)の運用状況及び分配金の予想の修正に関するお知らせ」に拠る
※2:星野リゾート・リート投資法人が10月8日に公表した「平成 28 年 4 月期の運用状況及び分配の予想の修正 並びに平成 28 年 10 月期の運用状況及び分配の予想に関するお知らせ」の平成28年10月期数値に拠る
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