2011年05月27日

不動産に物作りの視点を/REITアナリスト 山崎成人

 東日本大震災によってマンション賃貸市場や分譲市場のニーズが変化しているようです。
賃貸市場では、地盤の余り良くない湾岸部等から山の手地域への移動需要が起こっていますし、また災害時にオフィスから徒歩帰宅出来る範囲の立地へというニーズもあるようです。
元々、賃貸マンション市場のテナントは2~3年で一回転しますから、この傾向はしばらく続くと予想されますので、震災前には活発であった都内城北・城東地区のマンション開発意欲が低下しています。
一方、移転需要が見込める城西・城南地域では開発用地の確保が難しく、また相対的な土地価格も高いですから、昨今の賃貸市場の賃料相場では用地取得段階で採算が取れなくなる可能性が高いです。
更に、震災後は建築部材の供給の見通しが立ち難くなっていて、また震災復興に向けて 被災地域への供給が優先されることから、首都圏での建築費の上昇が必至です。
これは分譲マンションの開発でも同じことですから、今年の仕入れが低調になり、来年以降の供給減が見込まれます。
需要サイド側から見ると、賃貸マンションは必要に応じて移動が可能ですが、分譲マンションでは購入した物件によって住む場所が固定されますから、より慎重な判断になります。
特に、ここ20年位は住宅も超高層マンションが多くなっていますから、地盤だけでなく地震時の建物の揺れも問題になっています。 超高層マンションには柔構造を採用している物件も多く、地震時は特に上階の振幅が大きくなりますから、高価格で購入した住戸程地震時の懸念が強くなります。

次に、地盤液状化のリスクは、1964年の新潟地震によってクローズアップされましたから、その後の開発事業ではこのリスクが常に意識されていました。 私が開発事業に携わっていた時も、建物耐震性能と地盤液状化リスクは常に意識していましたが、耐震性能はその後の技術革新によってかなりの水準にまで引き上げられる可能性が出てきましたが、地盤液状化に対しては有効な対策がないままです。
尤も、これらの対応には相応のコスト増がありますから、今日に至るまで積極的に採用された物件は多くはありません。更には、供給側もコスト意識だけが高まってしまい、万が一のリスクに対して検討を重ねるという姿勢が弱くなっていますから、今日需要者がこのリスクを意識しても、選択幅が小さくなっています。
本来は、このようなリスクに対しては専門家が常に指摘しておく必要があるのですが、住宅関係では中立の専門家が少なく、このような視点で解説する例は滅多にありませんし、それにコスト増に繋がるような論評を展開すれば、デペロッパー業界に疎まれて活動が出来ません。
そのようなことから、震災前は供給側はコスト優先、需要側は住宅として必要な視点を十分に理解しないでの選択、そして中立的専門家は不在という状況で市場が動いていました。
このような状況に対して東日本大震災が警鐘を鳴らしたことになりますが、現在の市場構造では直ぐに舵を切れません。
確かに新耐震基準によって建物の崩壊は防げますが、住宅となるとそれだけで済むという問題でもありません。一億円もするマンションが、地震時は一般のマンションとは何ら変わらないという現実をどう考えるのかという指摘が出来ます。然しながら、手厳しい指摘をする専門家が不在の市場では、供給側の意識に頼るしかありません。
その意味でも、デベロッパーにはもう一度物作りの視点を取り戻してもらう必要があります。
また、デベロッパーにとって重要顧客であるREITは、特にこの面での高い意識が必要です。オフィスビルで見ても、地震時に有効な制振装置を具備している例は少なく、近・新・大を標榜しているグローバル・ワン不動産投資法人でも、保有8物件中2物件しか該当していません。
従って、REITは今まで以上に建物の性能を意識してポートフォリオを作っていくという姿勢が必要だと言えます。

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