2009年のJ-REIT市場を振り返って(その1)/関 大介
1. J-REITが再編へ至る要因
JREITの価格動向を示す東証REIT指数の09年末数値は、893.19と08年末の900.36ポイントを僅かに下回りました。09年の値動きは、値幅と変動率ともに価格乱高下が激しかった07年から08年の動きを下回っていますのでやや落ち着きを示しています。
一方で各銘柄の動向という面では、合併という形で再編が加速した09年は、REIT市場開設以来最も変動した1年と言うことができます。
従来のJREIT市場の再編は、投資法人の運営を行う資産運用会社を買収する形で進んで来ました。しかし09年になるとJREITの合併に関する制度改正が進んだことと単独では存続が難しい状況に陥る銘柄が増加したことで、合併が進展することになりました。
このような厳しい状況にJREITが陥った直接的な原因は、07年夏にサブプライムローン問題が顕在化し株価上昇を牽引していた外国人投資家が売り手に回り、価格が急速に下落したことにあります。
しかし合併という選択肢まで考慮しなければならなくなった本質的な要因は、05年以降に不動産価格が急速に値上がりする中で多くの銘柄が選択した物件取得方針にあったのです。
不動産価格が高騰し、取得する物件利回りが低下する中で、各銘柄ともに従来と同様の分配金を確保する必要がありました。分配金が低下すると価格に影響を与え、物件取得に必須となる増資が難しくなるためです。保有物件のポートフォリオより低い利回りで不動産を取得し、分配金を維持するためには財務面に負荷を掛けることが必須になりました。具体的には、長期借入金と比較して低い調達コストとなる短期借入金を中心し、さらに借入金比率を上げるという手法です。
しかし、このような財務運営では増資が困難になると、短期借入金の返済に窮するようになります。07年夏以降の価格低迷で増資が困難になる中で、08年9月にリーマンショックを迎え、さらに翌月にはニューシティ・レジデンス投資法人(NCR)が破綻したことでJREITに対する金融機関の融資姿勢は厳しさを増しました。財務にストレスをかえる物件取得方針の問題点がこの時点で顕在化することになりました。
金融機関のJREITに対する融資の判断基準はNCRの破綻以降、スポンサー企業を重視するという姿勢を強めることになりました。JREITは収益の大半を投資家に還元するため内部留保を持ちません。この点は借入金の返済原資をほとんど持たない会社と言い換えることができます。このため借入金の返済原資は、物件売却か増資に頼ることを意味します。
しかしJREITの株価が低迷し増資が困難な時期は、不動産市況も同様に低迷している状況です。つまりJREITは、市場が堅調であれば問題はないものの、価格が低迷すると借入金の返済原資に窮するという側面を持っているのです。
このようなREITに対し金融機関が融資を継続し、金利水準を決定する要素として重要な点はスポンサーへの融資への影響です。分かりやすく表現すればスポンサーが融資先を選定できる企業であれば、金融機関はREITに対し低い金利で貸出するという選択になります。これはスポンサー企業への貸出を失うデメリットの方が大きいためです。
言い換えれば、金融機関は国内有力企業がスポンサーになっていない銘柄に対しては融資を継続しないという選択肢もあるということを投資家は想定しなければならない状況になりました。このことがNCRに続く破綻懸念としてJREIT市場に広がったため、価格がさらに低迷し金融機関の融資姿勢を更に厳しくするというマイナスの連鎖が続く状況に陥ったのです。
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