オフィスビルとレジデンスの賃料動向/REITアナリスト 山崎成人
オフィスビル市場が軟調になっていますが、REITの保有ビルのデータをみると、2008年下半期でも賃料が上昇している物件がかなりあります。
これは、賃料改定が半年前位に行われることで実勢相場とタイムラグが生じるためだと言えます。
この時間差を考えると、REITの保有ビルでは遅くても2009年下期には賃料が下落すると考えられますが、どの程度の下落幅になるのかが問題です。
REIT市場では比較的オフィスビルセクターの評価が高くなっていますが、過去の賃料水準に推移をみると、オフィスビル賃料の変動幅が大きくなっています。
この傾向は都心のAクラスビルにも及び、過去のデータから推測すると最大で20%程度の下落は覚悟しなくてはならないかもしれません。
一方、レジデンスの賃料動向をみると、こちらは過去の変動率も小さく、オフィスビルに比べて半分程度になっていますから、相対的な影響度は小さくなります。
更に、レジデンスは一テナントの賃料が占めるシェアーも小さく、仮に個別に賃料値下げをしても全体に対する影響は軽微なので、稼働率さえ一定水準を維持していれば、全体への影響は極小になるとも言えます。
このように書くと、現在の局面ではレジデンスがかなり有利だと思えるでしょうが、元々、レジデンス賃料は市場が好調の時でも大して上昇しませんから、上も下も大きな幅がないのが特徴です。
又、レジデンスはテナントの回転期間も短い(約2.5年で全テナントが入れ替わる)という特徴によって、決算期毎に1棟平均の賃料水準が小幅に上下しますが、オフィスビルはテナントの回転期間が長いために、一度改定した賃料は、その後比較的長い期間賃料収益を左右します。
このようなオフィスビルとレジデンスの特性の違いが資産運用では問題になり、特性に合わせたテナント対策が必要となる所以です。
具体的には、レジデンスでは個々のテナントとの契約賃料に余り拘らず、稼働率を90%~95%前後に維持する方針さえ明確にすれば、パフォーマンスに大きな変化は生じませんが、一方のオフィスビルでは、簡単ではありません。
一テナントのシェアーが大きいことで、退去されてしまえば、稼働率が大きく低下しますから、景気後退局面のテナント交渉では弱い立場に立ちます。
テナント側から退去をちらつかせられて賃料値下げを要求されれば、呑まざるを得なくなりますが、一旦下げた賃料を回復するのは時間を要しますので、出来れば契約賃料は変えたくはありません。
そこで、フリーレント等の契約書に記載されない(付帯覚書で行う)手法でテナントの要求に応じるようになります。
おそらく今年はこういう攻防を行う局面が多くなると思いますが、テナント側に詳細を知られる事を恐れて開示しない可能性もありますから、投資家は投資法人の発表するデータを自ら精査(元々、REITでも1棟平均の賃料は開示していません)して賃料水準の変化をチェックする必要がありそうです。
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