商業施設の売却/REITアナリスト 山崎成人
JREITでも保有物件を売却して売却益を投資家に還元したり、配当金を上積みする例が増えていますが、従来の物件売却は、レジデンスと中小オフィスビルに偏っていました。
それが、最近では、商業施設にも物件売却の動きが始まっていますが、内容的には他の物件売却とはやや様相が異なります。
一つは、7月5日に発表されたジョイント・リート投資法人の都心型商業店舗ビル「b6(ビーロク)」です。この物件の取得と売却に至る経緯は次の通りになっています。
平成18年10月31日
(有)マーズ・キャピタル・パートナーズより準共有持分33%を66億円で取得。
なお、売主はオリジネーターの1社である㈱エルカクエイの関係会社です。
平成19年8月8日
(有)マーズ・キャピタル・パートナーズへ準共有持分33%を67.75億円で売却。
この取引を簡単に言うと、新築商業店舗ビルをオリジネーターから取得し、それを1年足らずで、また売り戻したということになります。物件売却益は約132,962千円と発表されていますので、取得から売却までの借入金利を考慮しても若干の利益は生じていると考えられます。
然しながら、何故1年足らずで売り戻したのかは明確ではなく、また、取引の経緯も今一つ釈然としません。
一方的な推測では、投資法人から売主に対して買い戻し要請をしたのではないかとも考えられます。
この物件は、神宮前という立地を見れば、エンドテナント(エルカクエイはマスタ ーリース)には事欠かない場所ですが、売却時点の設定賃料が約5万円/坪/月ですので、もしかしたら取得時点の予定賃料から減額があり、当初想定したパフォーマンスが出なくなったからかも知れません。売却発表の資料から物件の収益利回りを算出すると、グロスで3.94%/年ですから、 NOI利回りは2%台ではないかと考えられます。
神宮前という立地を考慮しても、この利回りでは低過ぎますので、オリジネーターとの取引という点を考慮すると問題です。 従って、売り戻す事で決着をつけたと言う推測も成り立ちます。
次の例は、日本リテールファンド投資法人の「博多リバレイン/イニミニマミモ」の準共有持分割合50%の売却です。
この物件は、平成15年3月に取得した物件で、当時としては冒険的な取得とも言えま した。
立地的に見てテナント誘致が難しい大型商業施設であり、投資法人も取得後の稼働率向上と安定に苦労していましたので、今回の売却によって、売却先の東神開発㈱のノウハウを取り込もうとしたと考えられます。
売却益が約802百万円と発表されていますので、こちらは取引自体に疑問はないものの、単純に1口当たりに換算すると2千円の配当金増がありそうですが、次期予想収益の修正はありません。前期(第10期)の決算を見ると、営業費用は約9,773百万円ですので、今期(第11期)は売却益802百万円が相殺されるような費用の支出があるのだと考えられますが、 その費用は、この物件の地下2階のリニュアル費用かもしれません。
以上のように、最近の商業施設売却例は内容の把握が難しく、また、単純に投資家へのキャ ピタルゲイン還元策でもなさそうです。勿論、JREITではこのような方策も必要だとは思いますが、もう少し説明が欲しいところですし、一方でJREITが調整局面にある現在、単純に投資家に対するメリット提供の売却例があっても良いと思います。
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